『美しき青きドナウ』の調べに乗せて2010 晩夏
salco

つらつら考えるに、
宇宙空間では色々な実験を行なって来たそうだが、性交はまだなのではなかろうか。
あるいは極秘裏だったのかも知れないが、「未確認飛行物体」程度の眉唾リークもないからには、宇宙ステー
ションがああして組み上がる以前も、スペース・シャトルやソユーズではやらなかったと推測しても差支えな
いだろう。こっそりハメを外した者すらいないに違いない。と考えるべきなのは、スペースの問題というより
他の乗組員の手前。そして手前より遥か以前に、1回の飛行に莫大な国家予算がかかっている。実験という名
目でなければとても実行できないのが実情だ。


〜 大気圏外 〜

無重力での受精が無問題モーマンタイなのは、両生類で実証済だ。人間の精子もどうせ泳ぐ(最古式泳法・ヨコバタフラ
イ)。卵子はどうせ下り、落城し、受精卵は適宜に着床する。問題は性交時の運動力学だ。
腰のひと振り、突貫のひと突きが無限の推進力となってしまうから、専用保護室で行なうにしても、クッショ
ン壁で頸椎を痛める恐れがある。まずは位置の固定が必要だ。力の位相が分散せぬよう、ピストン運動の補助
もしてやる必要がある。すると、あの懐かしの名品・スタイリーのような中折れ寝椅子に、腰部を織ゴム状
の弾力性のあるベルトで固定し、尚且つ臀部を後ろから押したり引いたりする仕組みが合理であろう。
女性の臀部の運動性は左右に傾ぐターンテーブルで補佐する。レコードプレイヤーもしくは中華飯店からの応
用だが、無論、内部のベアリングは日本製である(日本のベアリング鋼鉄球は最高精度、真球の極限値である
)。これらの機器については、筋肉運動が自ずと機器の発電源となり、同時に筋肉組織の電位が機械動作を自
動制御する仕組みにできると尚よかろう。

実施中は何かと体液の漏出があるので、核心部分は密閉せねばならない。やはり2体の腰部を覆うブルマース
状のカヴァーが簡便と思われる。例えば、完全防水で透湿性に優れたゴアテックス®の4つ穴一体型で、重なっ
たまま各々脚を通し、内部に溜まった液体は常時接続管で吸い出させる。液体は肌に付着させぬ方が快適であり、
浮遊させた方が回収しやすいので、カヴァーは小型ファンで気球様に膨らませて置くのがよいだろう。射出後に
膣圧で押し出される精液についても同じだ。管を通して排出され、接続先の高熱処理装置で焼却される。


〜 適材適所 〜

実験目的ではあり、液体の流出を防ぐため体位交換はしない。やや冗漫であれ、宇宙空間での性交自体に天地が
無く、体重もかからないからである。
女はスペイン人、男はフランス人辺りが好適かも知れない。さぞかし濃厚で賑やかだろう。ロシア人は口臭がき
つそうだし、アメリカ人では抒情に乏しい。すると初回の実験はコロンバス(欧州実験棟)で行なわれるわけだ。
美しき青き地球を見ながらのセックスとは、いかばかりのエクスタシーであろうか。
前戯からアクメに至る通奏情感であるところの悲哀も半端じゃない。果てた後は尚更だ。つまりFantaaa-
stic,Rrrromanticの極致。しかも地上の如き凡庸な環境でないから、退廃はない筈である。
男は特にラテン系が良いというのは、ブリトン吝嗇スコット四角四面ゲルマンで脳髄が目詰まりした英男ヒデオ独雄ドクオは通夜のようなセ
ックスをしがちなので、過酷な漆黒の虚無空間でそれは余りに侘しいというものだ。
女は国籍、肌色とも何でも構わぬと思うが、男がニッハンヂョンなど東アジア系だと、お道具の形質がどうも宇宙には
そぐわないのである。いや長さよりも太さが。
又、余り硬いというのも無粋な気がする。年齢にもよるが(あの過度な硬度は、円周に対する血管の表面積比から来
るのではないか。つまり細いのに血管の本数、太さ、血液流入量は大差ない、という。無論、個人的には文句ない
が)。

上半身に血液がイッてしまう無重力では、海綿体の充血が十全に行かないのではと懸念する向きもあろうが、ほぼ
中央に位置するのではあるし、重力も働かない分、勃起に際しての物理学的負担は寧ろ少ない。そうそう、上半身
に血液がイッてしまうのはバストアップ効果をもたらすので、女にとっては好ましいのだ。


〜 放出 〜

ところで、宇宙ステーションに長期滞在している乗員はオナニーするのか。
現実問題として、男は当然しなければならない(女もたまには)。さもなくば顔はもっと充血し、ややもすると
脳の血管が破れそうだ。そうでなくとも密室の人間関係にパーソナルなストレスの持ち込みは禁物である。
宇宙飛行士の適性は驚異的な身体能力、ミッションに要する知力と共に、度胸も含めた相当の忍耐力と寛容性、
協調性が人格に求められる。それらは反復訓練によって強化されるのではあるが、国家機密を扱う事とは別に、
初期から現在まで一貫して空軍士官が起用されて来た理由はそこにあるのだ。
今のところ不埒な滴の浮遊が目撃されていないという事は、やはりズボンの中に手を入れ、下着に吸わせて
いるに違いない。がびがびの紙パンツは圧縮処理され各国の出資金でNASAが回収しているらしい。
らしい、と言うのはアダルト事項なので未公表だからである。

将来は自家再利用が可能となるだろう。便を有効活用しているとは聞かないが、尿は浄化して飲料水にしてい
るそうである。ションベンを真水に還元しているのならば、回収した精液から分離・抽出した動物性タンパク
質は必ずや食料として役立つ(ここで我々はモーパッサンの『脂肪の塊』を想起せずにはいられない。業務上
の高栄養摂取で肥満した娼婦の話である)。
その点、量は多くても女性の分泌液は大した役に立ちそうもない。封緘糊ぐらいには使えそうだが、宇宙での
通信が紙媒体であろう筈もなく、よしんば糖分と香料を添加してグミにしたところで栄養価があるわけじゃな
し、お門違いで機械類の潤滑にも適さない。食材に窮する宇宙空間はダイエットの場ではないから、有用化に
は恐らく時間を要するだろう。


〜 離脱 〜

宇宙空間での受胎、スペース・チャイルドは生まれながらの旅人だ。
さまよえる人類の突出部としてのか弱い産声が船内に響き渡る。日常からの脱出、定住地からの逃避である旅が
大気圏外を指す場合、それは突出というより人類存続の危機をも視野に入れた決死行であり、地球帰還を前提と
しない、果てなき流浪を意味する。しかし当面の問題は、その頭蓋である。
成人さえ三点倒立状態と等しく顔がパンパンに浮腫む無重力空間では、乳幼児の開いた大泉門・小泉門から硬膜
ごと脳がヘルニア状に脱出してしまい、そこに何かが接触して脳が傷つく恐れがある。かと言って頭骨と脳の成
長の為には縫合*するわけに行かない。頭部に適度な圧を与えつつ保護するヘルメットが必要となる。ウレタンの
ように弾性がありメッシュのように通気性がよい、装着感がごく軽く相応に頑丈でなければならない。

かくしてスペース・チャイルドは旅を続ける。
何世代か後には、それは周回軌道を外れて地球からぐんぐん遠ざかるだろう。不朽の低予算SF映画・『サイレン
ト・ランニング』のブルース・ダーンのように、失意と孤独の永遠を、若干の狂気を胸に。


〜 帰還 〜

彼は毛深いボックヴルストといった風貌の渋いB級映画俳優だったが、惜しい哉、アスファルトで干乾びている
ヌガーみたいな顔に生まれてしまったのが、おやじより格段に功成り名を遂げた娘のローラ・ダーンである。
『イレイザー・ヘッド』『ストレイト・ストーリー』の巨匠デイヴィッド・リンチ組のなかなかいい女優ではあ
れ、惜しい哉、馬づらの女というのはそそらないものだ。
『ワイルド・アット・ハート』と近作の『インランド・エムパイア』で共演した母親ダイアン・ラッドは艶なが
ら知的なバイプレイヤーで、顔のパーツはそちらに似ている。よって魅惑の金壺眼とげっ歯類的口吻でなく、
父さんからは長身と輪郭を継いでしまった。
女優・白川由美と作家・井上ひさし(合掌)が血縁にあるという日本人の驚嘆でわかる通り、まことにジョン・
ヴォイトの遺伝子からアンジェリーナ・ジョリーを生成するのは配偶者の美質如何に関わらず、単に確率の分母
が天文学的なのである。

輪郭は集合の帰属を意味する。例えば少しくクレイジーな明眸であってもミシェル・ファイファーのような、
角い丸顔もしくは卵型がやはり、美貌の基盤であろう。いくら巧いとは言え、メリル・ストリープばかりが活躍
しては面白味がない。若い頃はまだしも、また鼻の形はどうあれ、長細い輪郭の彼女もあえかとは言い難いのだ。
ところで私の友人はかつて、小泉今日子を日本のミシェル・ファイファーだと評した事がある。10代の頃はキ
ョン²にぞっこんだったそうだ。なるほど彼女はきれいで魅力的だし、元祖男前アイドルとしてセンスもいい。
しかし私に言わせれば、いかんせん悪が不足している。蠱惑がなければ、何てったってファイファーとは呼べ
ない。音を外す歌唱力には目をつむるとしても、だ。


〜 内なる恒星 〜

言わずもがなセクシュアリティーは若さに非ず、女の場合、それはニョニョニョニョ女女女女の質量と言える。目尻の皺や
垂れ加減のオッパイ、尻とは必ずしも相関しない。まなざしや香気、肚の深さと低反発なそのムンムン巫巫気圧の威力
なのである。
周知の通り、女のブラック・ホール化は30代から始まる。小娘の侮蔑や若い男のゲロなど瞬時に吸収してしまう
。見よ、この削げ始めた向う脛の妖しさ、高級羽毛布団にも似たあっちゃこっちゃのキャパの深遠を。
50代、60代にもなれば、地球も太陽系も我が物である。この国では恐らく大阪のおばはん、沖縄のおばあ辺り
が最強伝説の双璧であろう。

伸びやかなぴちぴちの肉体はなるほど無敵だ。いかんせん、小便臭さと黄色い嘴は性の価値をダンピングする。何故
なら後で何をされるかわからないという畏怖がなければ、大よその男は女子をぞんざいに扱いがちだ。
果実の糖度は爛熟に在り、花の凄味は枯れ萎み行く過程に在る。人間も同じだという事実は古より市井に於いてさえ
実証されて来たというのに、マグダラのマリア没後2千年に至るも主役級女優の職業人生がかくも短いとは、映画産
業特にホーリーウッドは実に恥ずかしい性差別と商業主義に留まっているのである。
これは決して、消費者の要求ではないのだ。娯楽はアホと若年層向けにしておけば収益が大きいという、安直な経営
戦略に則った強迫観念に過ぎない。アホでなくとも娯楽は要るし、若年に限らず大概はそこそこアホなのだという人
文学的事実に目を向けていない。還暦過ぎのターミネーターや楽隠居のインディアナ・ジョーンズなど、青少年の夢
と中年の思ひ出に泥を塗るような、困った企画をぶち上げる手間とカネがあったら、まだまだ美しく濃厚いや増す中
年、熟年の大物女優を主役に、もっと人類の文芸レベルを底上げしなくてはいけない。
10歳で既に完成していたエリザベス・テーラーは別にしても、グレタ・ガルボ然りエヴァ・ガードナー然りカトリ
ーヌ・ドヌーヴ然り、美女は元来が早熟なのだ。老成している。加減の余地がない優越性こそが美だからだろう。
『男と女』当時のアヌーク・エメなど、今の基準では四十路にしか見えないではないか。
そして現代は幸いな事に、容姿を維持するだけの医療を受けることができる。俳優組合を代表する景勝か否かの評価
は分かれるものの、世界遺産登録を志す某・キッドマンなど年々顔が吊り上がっているほどだ。いずれ前額の皮膚が
後頭部に廻るのではないか。


〜 招待 〜

おゝ、美しき青きドナウ。
滔々と今日も流れるこの一級河川が青いのは晴天の反映であり、実質的には美しかったためしなどありはしない。
中世以前はともかく、各地に下水処理施設が存在しなかった19世紀当時は言わずもがなだ。正に美在想念、郷愁
有情、洗練於旋律なのである。「脳波は楽譜だ」ヨハン・シュトラウス2世*。




*1 嬰児の頭蓋骨が早期に癒合してしまう先天性疾患をファイファー症候群(Pfeiffer syndrome )という。
http://www.jichi.ac.jp/keisei/disease1.html

*2 ヨハン・シュトラウス2世 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A6%E3%82%B92%E4%B8%96
   脳波の発見、報告について 
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B3%E6%B3%A2
  


散文(批評随筆小説等) 『美しき青きドナウ』の調べに乗せて2010 晩夏 Copyright salco 2010-08-29 11:17:52
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