粘土
たもつ

 
 
一団の土地から分筆された遊休地に
エンジンのない建設機械が放置されたまま
数十年が経ち
その間にもわたしの弟は
産まれてこなかった
だからまだ名前もないし
椅子に座ったこともない
 
遠い昔、というありふれた表現のある日
粘土で遊ぶ約束をしたのは
脳のどこかの部位で作り出された
偽物の記憶だったのだろうか
 
近所の斎場の前を車で通るたび
俺が死んだらここでやってくれ
と父は言い
もっと交通の便の良いところでやりましょう
と母は返す
兄は仕事で遠くに行ったまま帰ってこない

そして弟はまだ産まれてこない
だから食べ物の食べ方も
生き物の触り方も知らない
いつの間にかわたしは
早く産まれすぎてしまった
 
 


自由詩 粘土 Copyright たもつ 2010-08-28 08:19:53
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