dragon phantom
TAT
あの日も確か雪で
丁度あれぐらいの大きさの竜が
南へ向かって飛んでいった
私達は先を急いでいたし
麻薬もあと一回分しかポケットには入っていなかった
口には出さないが
皆それを痛いほど知っていた
怖れに当てられて雪山に声をぶつけた仲間を
雪崩が来るぞ馬鹿野郎と別の誰かが殴りつけた
私達は神が笑うのを見た
私達はローストビーフの幻を見た
白い山の向こうに
白い山の向こうに
更に大きな白い山があるのか
町の灯があるのか
私達の内の誰一人として
明確な答えを持っている者はいなかった
飛んでゆくぐらいだから
水場でもあるんじゃないかと
私達の内の誰かが
数百年も昔にそう言ったんだと思う
そんな訳で南(多分)に骨の鼻を向け飛んでゆく竜を
これでもう数千頭は見送った
私達の内には
竜は今ので四頭目だと言う者もいるし
悠に七万頭は超えたという者もいる
けれどもそんな微小な数値のずれは
やがて莫大な数字の誤差の中に呑み込まれてゆくだろう
スケルトンブルーの全身に
プラチナ色の骨を巡らせて
飛んでゆくあの美しき竜
国語学者が聴いた
最期のユーカラのうたごえのように
神々しくも
はかない
dragon phantom
あの日も確か雪で