dragon phantom
TAT










あの日も確か雪で






丁度あれぐらいの大きさの竜が





南へ向かって飛んでいった





私達は先を急いでいたし




麻薬もあと一回分しかポケットには入っていなかった



口には出さないが




皆それを痛いほど知っていた







怖れに当てられて雪山に声をぶつけた仲間を



雪崩が来るぞ馬鹿野郎と別の誰かが殴りつけた






私達は神が笑うのを見た




私達はローストビーフの幻を見た








白い山の向こうに








白い山の向こうに




更に大きな白い山があるのか







町の灯があるのか









私達の内の誰一人として










明確な答えを持っている者はいなかった













飛んでゆくぐらいだから





水場でもあるんじゃないかと







私達の内の誰かが











数百年も昔にそう言ったんだと思う












そんな訳で南(多分)に骨の鼻を向け飛んでゆく竜を










これでもう数千頭は見送った








私達の内には









竜は今ので四頭目だと言う者もいるし







悠に七万頭は超えたという者もいる









けれどもそんな微小な数値のずれは






やがて莫大な数字の誤差の中に呑み込まれてゆくだろう









スケルトンブルーの全身に







プラチナ色の骨を巡らせて








飛んでゆくあの美しき竜











国語学者が聴いた







最期のユーカラのうたごえのように











神々しくも












はかない













dragon phantom









あの日も確か雪で



















自由詩 dragon phantom Copyright TAT 2010-08-25 21:19:52
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