かいだん
……とある蛙

街灯の先にある交差点、ボーッと浮かび上がる黒い物体 誰も顧みることの無い深夜 行き交う車も無い漆黒の深夜、黒い月

それは奇妙な物体、人体様のものだが、部位それぞれが異なる。体毛はうっすらと生えているが腕が無い。腕の代わりに∧前脚様の物∨、左右二本ずつ胴体の中央から。肌表面の色は∧褐色∨、体毛は∧黄金色∨、頭頂部に頭髪はなく、円形の頭頂部からすだれのように細い毛髪が垂れている。頭部は胴体からほぼ直角に何かを仰ぎ見、眼球に瞳は無く。∧瞼の中の眼球∨瞳孔が収縮している。鼻梁はなく∧二つの鼻孔∨があるだけで、そこからは異様な臭気がたちこめている。口に牙はないがべっとりと血痕がへばりついており、絶命前に何かを食したことが想像される。

(ところでこれは)

人体ではあるまい。[エイリアン]か、それとも新種の生物か、現在の生物の[亜種]か。やはり、人類か。
この様な物が住宅街の奥深く、しかも交差点の中央に遺棄されている。およそ何の脈絡もなく空から落下でもしたかのごとくうち捨てられている。しかし、何の損傷もない死体(遺体?)であり、落下した物ではない。引き摺った後もなく誰にも見られること無く、その場にいる。

空には黒い月。彼者誰時、地上に霧がかかり、その中に浮遊する物体、死体、遺体。尋ねるまでもなく土蜘蛛。まつろわぬ民の末裔。そのまま遺棄され、誰もが無関心。

かつて騙し討ちしたまつろわぬ民の末裔、朝日ととも砂となり風に吹かれて消えていった。


自由詩 かいだん Copyright ……とある蛙 2010-08-22 22:37:37
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