recognition
榊 慧

トイレの白い個室のドアには蛾の羽根についていた模様の一部がついている。トイレットペーパーで蛾をおさえつけ両手でつぶす。蛾はトイレットペーパーで見えないがきっとつぶれている。その跡だろうこの灰色の汚れは。蛾はつぶれたら死ぬのだろうか、俺はつぶした、つぶそうとしてつぶしてトイレに流した。蛾は死んでいるのだろうか。
トイレの個室は暑い。蛾はつぶれた。暑い。手を洗いたい。蛾をつぶした。手を洗いたい。べとべとしている俺を流したい。手を洗って、そうしたら蛾は死んだ。蛾は海に出る。



斜め前に座っていた人が食べようとしていたバナナに、そのバナナには大きな切り傷みたいなのがあって皮だけじゃなくて食べる部分にも切り傷は届いていた、だから皮だけじゃなくって、その部分が黒く変色していてどろどろで腐ってるようにも見えたし食べずにそのまま生ごみになったんだよ。残飯と一緒にどこかへ運ばれてそしてまた切り傷のバナナが出来上がって捨てられて運ばれて残飯は残飯になって俺は若いバナナを食べていた。






眠たくなってきたのを信じたら眠るんだろうな、水筒の中身を半分以下にして俺は起きている、眠たいと何もできないよね、水筒に入れたほぼ水を飲む。残りはレモン果汁。眠たいの?うん眠たいよ…………なんで起きているの?眠りたくないんじゃない?眠たいの?眠れないんだ俺は眠りたい、やあ甘夏の木、蛍光灯、換気扇と左腕。北へ走れ水筒を持って俺は北へゆきたい水筒と眠気と温度/北へ走れ。





ガーベラの茎は曲がり重力に従っている。茎は一部茶色くなり臭いを感じればそれは腐っていた。明日へ倒れる俺は見えない。残ったもののそのさらに残りが消えてくれなかった駆けぬけすぎし実態はない。見えざる傷というものはない。蛾の羽根の跡は消えていた。秋は残らない。







散文(批評随筆小説等) recognition Copyright 榊 慧 2010-08-22 15:12:06
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