汽笛
たもつ

 
 
汽笛が鳴って観覧車が発車する
ゆっくりとした速度で空を進む
向かいの席に座った初老の女性が
リンゴを剥いている
いかがですか、と勧められ
親戚でも無いのに半分をいただいた
リンゴは特別好きな食べ物ではないけれど
嫌いでもないので美味しかった
窓の下に見える建物や人が小さくなっていく
同じように女性もわたしも小さくなっていく
トンネルの入口が近づき
煙が入ってこないように慌てて窓を閉める
真っ暗な闇の中で
身体が身体で呼吸をしていることがわかる
トンネルを抜けて再び明るくなると
お互い姿が見えないほどに小さくなっている
窓からは遥か遠くに広がる牧場の干草しか見えない
この観覧車はどこまで行くのですかね
と尋ねられたので
いつか元の場所に戻るんですよ
そう笑って答えてはみたものの
いつ元の場所にに戻るかなんて
わたしにもわからない
 
 


自由詩 汽笛 Copyright たもつ 2010-08-21 22:31:08
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