夏の楽譜Ⅱ
まどろむ海月





炎の涙が昇華し
散りばめられた光彩の
上空を切る高圧線の名は
一瞬に置き去りにされる

はなやぎの漣が広がり
煙の巨人は叫ぶが
底知れぬ闇は隠された

消えては映る木霊と
思い出の紫陽花を浮かべて
やがてすべてが銀河とともに
退いていく



 遠い夜の街の哀しみに
 流れ落ちてやまない星
 願いは燃えても沈黙は深まり
 海月と海星は寄り添うがそれは
 地平の彼方の儚い出来事

 存在を隔てる罪と罪の狭間は
 僥倖たる生を無意味化し
 林檎は手からこぼれ天使は
 全能者の御許に去っていった
 ええ あのひとは
 もどってはこない
 もう…





ねえ
星影の湿ったところから
薄明は抜け出したよ
風に腰掛けていた夜明けは
川上に揺れる微笑を流している
大気の重力から解き放たれて



心を支えつづけた友の
顔さえ見ずに歳月は過ぎ
生死の境のあいまいな関係に
朝は久しくまどろんだまま
そびえ立つ波のすべてを
受けとめている






                     






自由詩 夏の楽譜Ⅱ Copyright まどろむ海月 2010-08-21 16:50:39
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