空の端
砂木

もしも車を降りて歩いた道になつかしさがあるなら
初めての土地だというのに二度と行かないというのに
どこまでもありふれた水田の続く田舎道を
よそ者が歩くのは珍しく少し勇気がいったけれど
私は覚えていたかった 二度と
歩くことがないと知っていたので

汽車の窓からみえる紅葉の黄色がやけに綺麗で
納得を強いられている身には赤はどぎつく
忘れる事からほど遠く 掴めない視線の先
窓にうつる どこにでもいそうな女と目が合う

私だけ 年をとってしまったわ

何年たっても私は生き続けて黙り込むのだろう
かきむしる爪が暮らしやすいように切り揃えられ
それでも段々と巡り会いを信じるようになった
私だけ手をのばしていたのではなかった
呪文のような夢をみる 行くな と
信じてもどうにもならないけれど
信じないよりましな夢 どこにも行くな と

私だけ 年をとってしまったわ
お守りに 両手を添えて
守れなかったものと守らなければいけないものを
握りしめ続けている


自由詩 空の端 Copyright 砂木 2010-08-13 11:48:11
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