特急の鼻
草野大悟

湯気の立つ肉塊を
両手で拾い集めて
ふたりを収納しても
まだ
身元は割れない。

発車を急ぐ特急は
ふたりの命など
雪よりも軽いらしく
せかせかと汽笛を鳴らす。

母と息子を一瞬にして肉塊にした
馬鹿でかい重さがいまは
雪よりも
もっともっと軽いことを
誰もが望んでいるのに
せかせかと汽笛を鳴らす。

その我が侭に
はらわたが
煮えくり返りそうになりながら
最後の肉塊を
両手にすくい上げようと
しゃがみ込んだそのとき
特急の鼻にぶらさがった
ビニール袋を
見つけた。

中には
位牌、親子の障害者手帳、遺書。
位牌は
この日がふたりの
夫の、あるいは父親の一周忌であることを
教えていた。






自由詩 特急の鼻 Copyright 草野大悟 2004-10-15 23:12:49
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