狐座リング状星雲のあなたへ
佐々宝砂
指にはさまれた紙片はガラスの破片のように鋭利に
あなたの皮膚を切っているらしかった
あなたの体液はきっとすこし酸っぱいのだろう
あなたの指を舐めている蛙は
横に広いはずの口を丸めている
いたって事務的な態度
が理想なのだが
理想は理想
ぬるくなってきた珈琲に
ちらほらと混乱の痕跡が浮かぶ
狐座リング状星雲からはるばる来てやったのにとあなたが言う
そんなのしょせん銀河系内部じゃないのと答える
それじゃあ今度はそっちから狐座まで来てみろとあなたが言う
私の髪をカミキリ虫が切り落としてゆく
あなたはそれを止めようとはしない
私の膝には短い髪の毛が蓄積してゆく
あなたの髪にはあかるい陽射しがあたっている
と思ったらそうではなくて
あなたの髪はすっかり白髪になっている
何をしても足りないのだと
わかっているので
何もしないでいる
それを言う必要さえないので
だまっている