蝉と月
クローバー

7年ぶりに観覧車に乗ると
向かいに、スニーカーを履いた蝉が座っていた
「じー、じー、じー」
「みん、みん、みん」
僕は蝉の言葉はわからなかったし
蝉は人の言葉がわからなかったから
とりあえずお互いのまねだけしほほえみあった。

スカートから伸びた孤児のように細い脚
7年7日とプリントされたシャツを支える薄い肩
顔に張り付くほんのり赤みがかった髪、整列を嫌う八重歯

突然、僕は力の限りなきたくなって
「みん、みん、みん」と、ないた、けれどそれは人の言葉でしかなく
人の言葉が、わからなくなってしまった君は
そっとほほえみ
小首を傾げた

7年7日、とプリントされたシャツ
月はないんだと気づいた
観覧車は沈みはじめ
もうすぐ終わるというのに
君に何がしてあげられるのかわからなくて
窓を開けたり閉めたりした。


自由詩 蝉と月 Copyright クローバー 2010-08-09 20:36:37
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