東京人魚
萩野なつみ
(雨に濡れた明朝体のようなてのひらで羽だったあたりをなぜてください)
水のない水底で背びれをあらいあう僕らは人にも魚にもなれずに
「この鱗あなたにあげる。ともしびをわすれた夜のともしびとして」
きらきらのネオンをあいするひきかえに声をなくした それでよかった
――とびたいのとびたくないのとべるけどとばないだけなのわたしの人魚
なにもかもうそよ、とわらうきみの目が人魚の鱗のようにひかって
あんまんとスプライト提げきみとゆく家路は星の底、水の底
、そして春をまたずに泡となる人魚がまぶたをとじる東京