箱入り猫娘
N.K.

ひとしきり 遊んだあとに娘は 
本へ目を落としていた私に 突然
これ はこ?と聞く。

本の入っていた段ボールの空き箱を指さして

ロシア・フォルマリズムから日本の
8月の自宅の居間へと
引き戻された自分には
ずいぶんと 深いところから
発せられた問いのようにも聞こえてしまい

そうだね
そして 君は ねこだね。
と試しに少しはぐらかして
答えてみる。

 (だって いつも君は気まぐれで
 父親に寄り付かない時もあれば
 突然 ピタッとくっ付いてきたりするから
ね。)

はこ と ねこ
似ていないかな。
烏賊と異化ぐらい似ているかな。
暗喩だとしたらどうなるかな。

これは はこで 君はねこ。

繰り返したら 小さな君は もそもそ
始めて そうして すっぽりと 
段ボールの中に入ってみせて
猫と箱とを一つにして見せた。

これは はこで 君はねこ。
これは 命令文ではないのだけれど

猫が箱に入っているの?と聞いてみると

割と真剣に君は頷いて
言いたかったのはこういうことでしょ?
という顔をしていた。


自由詩 箱入り猫娘 Copyright N.K. 2010-08-06 02:20:41
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