子宮
麻生ゆり
梅雨の涼しげな霧雨が降る中
ふと本当に愛した人を想う
今では声聞くこともできないけれど
私の心の中には未だ
目には見えない刃が刺さっている
あなたと何度笑いあっただろう?
あなたと何度口づけしただろう?
あなたと何度身体を重ねただろう?
あなたは私の心の奥底や
身体の芯の部分に触れていった
そして絶頂を感じていたのはあなただけじゃなかったのよ
でももっと中に入って私に快感を味あわせても良かったのよ
そうでもしなきゃ
とても愛することなんてできやしないわ
あなたを思い出すと
きゅっ、と子宮がうずく
この中にあなたが届いていたなんて
今思えばなんて簡単なことだったのかしら
あなたのあられもなくうわずった声が
今でも耳に残っている
だけどあなたは風になった
不確かな私にとどまるらず
確かな場所で吹く風になった
あれだけ激しく私の身体を撫でまわしていったのに
もう風(あなた)の香りは忘れてしまったわ
気づけば霧雨は雫になり始めた
私は傘を差すことなく
無慈悲に降りゆく雨の痛みを
ずっともっと感じていたかった