子宮
麻生ゆり

梅雨の涼しげな霧雨が降る中
ふと本当に愛した人を想う
今では声聞くこともできないけれど
私の心の中には未だ
目には見えない刃が刺さっている

あなたと何度笑いあっただろう?
あなたと何度口づけしただろう?
あなたと何度身体を重ねただろう?
あなたは私の心の奥底や
身体の芯の部分に触れていった
そして絶頂を感じていたのはあなただけじゃなかったのよ
でももっと中に入って私に快感を味あわせても良かったのよ
そうでもしなきゃ
とても愛することなんてできやしないわ

あなたを思い出すと
きゅっ、と子宮がうずく
この中にあなたが届いていたなんて
今思えばなんて簡単なことだったのかしら
あなたのあられもなくうわずった声が
今でも耳に残っている

だけどあなたは風になった
不確かな私にとどまるらず
確かな場所で吹く風になった
あれだけ激しく私の身体を撫でまわしていったのに
もう風(あなた)の香りは忘れてしまったわ

気づけば霧雨は雫になり始めた
私は傘を差すことなく
無慈悲に降りゆく雨の痛みを
ずっともっと感じていたかった


自由詩 子宮 Copyright 麻生ゆり 2010-07-28 15:32:21
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