看板
さき

「愛をください」
そう張り出して何年も経ち
今やそれは
誰も気にとめない風景となった


年月がたつと色あせる
看板の前に立ち尽くし
皺だらけの手をしばし見つめた
「いいえ、信じない」


品行方正な大人たちは
「みなそういう過程を辿るんだ」
と看板を指差し
まだ年端もいかない子供達に
訳知り顔で
教えている


交通整理のおじさんは
たまにとても優しくて
わたしに甘い飴をくれる
誰にでも優しいのかな
でもいい
涙が出るから


何のために生きてるんだ
傘の先でつぶした
カタツムリが
あの日
逆に問いかけた


「生物はただ、生きりゃいいってもんじゃないんだぜ」
「あんたは何?」


だから
雨の日も
風の日も
晴れの日も
看板は無言で主張している


正しいことなんて
誰にもわからない


みんな
そう言う











自由詩 看板 Copyright さき 2010-07-20 23:24:30
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