独り言
たもつ

 
 
三角定規が数ミリ単位でずれて
安アパートが崩れた
確かに昔、ぼくはその二階の
日当たりの悪い角部屋に住んでいたけれど
何度か前を通っても人の気配がなかったので
もしかしたらぼくが
最後の住人だったのかもしれない
あるいは何か他のことを考えていたのかもしれない
いずれにせよマジックで自分の名が書かれた三角定規を
瓦礫の中から掘り出してポケットにしまうと
幹線道路から何本か中に入った路地を歩く
昨日と同じところにタイヤの跡のついた
洗濯物のような男物のシャツがまだ落ちていた
昨日、その話をあなたにしたけれど
今日その話をしたところで
あなたはいないから
独り言にしかならない
 
 


自由詩 独り言 Copyright たもつ 2010-07-13 22:21:33
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