おじさんはガンジス河のひと粒として
石川敬大




 その身を削いでゆく
 どこまでも
 いつまでも
 と、いうわけにはいかないのだ
 だれであっても
 どんなひとであっても

 あげくの果て
 使いものにならなくなった
 と、お陽さまが
 すまわれている天上に
 召されてしまう

     *

 よごれた布になって戦場から帰っても
 だれに愚痴ることなく
 不平や不満ひとつ言うことなく
 おのれのじんせいを
 黙々と
 ただ黙々とチビてゆくことをしつづけた

 まったく
 ガンジス河の黄土の砂みたいな奇跡のひと粒の生命を
 鉛筆みたいに営々とくりかえしていった


 人生訓など聞いたこともないが
 笑みを絶やさないひとだった


 ひとから頼りにされること
 ひとにうしろ指をさされないこと
 そんなひとの家こそ
 大金はなくても営々と末代までつづくんじゃないでしょうか
 と、和尚がほめあげたいっしょうだった

     *

 九十一歳
 無念の死では
 なかったはずだ






自由詩 おじさんはガンジス河のひと粒として Copyright 石川敬大 2010-07-12 15:37:45
notebook Home 戻る