参議院選挙へ みんなと行く
オイタル

ゆく道の車の窓に
雲を光らせ 幟旗を押し立てて
見知らぬ男たちが手を振る
起きぬけの笑顔で

すぼめて垂らした傘の先を
水たまりに映して
参議院選挙の投票に行く

昨日死んだ紺の背広の彼には
まだ濃く選挙権が残っているので
連れていく

声をなくしたまま眠った母は
一年を過ぎてうっすらと
選挙権が滲んでいるので
連れていく

一緒に父も 連れていく

色彩のない風の中で
朱色にふとんを焼かれた従弟の選挙権も
少し庭に架かっているので
連れていく

(また振り出した雨が
 肩を少しずつ冷やしていく)

丁字路のところで
犬が吠える 奴も連れて行く

腹の痩せた 猫も

結婚を間近に控えて
冷たい枕を抱えた次の従弟も
連れていく

あちらの曲がり角から
二人
むこうの信号の陰で
八人

さわさわと集う数百数千の
ただならぬ死の気配を羽織って
私は彼らを連れていく
無数のにぎやかしと無数の怒りと

わずかずつ残った
使い残しの選挙権とを掃き集めて
七月の朝の暗い小雨の
第三十二投票所の階段を
ゆっくり のぼる


自由詩 参議院選挙へ みんなと行く Copyright オイタル 2010-07-11 23:37:55縦
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