君のアパート
草野春心



  六月の光が君の
  最後のてのひらで混ざって
  うすぐらい雨になって
  降りしきった
  君の小さな声や
  僕のくだらない夢は
  もう誰にも
  聞こえたりしなかった



  八月の自販機に
  百二十円を入れたとき僕の
  心臓のなかで君が
  降りしきった
  聞きたくもなかった言葉や
  聞きとれなかった言葉が
  死ぬほどたくさん聞こえた



  世界のどこかには
  まだ君の
  うら寒いアパートが立っていて
  誰かがそのそばでタバコを
  踏み消しているだろうな
  まだ君のアパートの近くには
  ファミマがあるだろうな
  誰かがそこに行って
  コンドームを買っているだろうな
  君のために




自由詩 君のアパート Copyright 草野春心 2010-07-08 17:30:24
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