フラッシュバック
山中 烏流
鉛の先が、机をすべる音
紙が擦り合わさったあとの
一瞬の沈黙
傾けた椅子の角度に
ほんの少し
斜めを気取った世界
眼鏡を掛け直す
誰かの、寝息
***
数十と繰り返した音と
もう何回目かも忘れた、単語の束
ひとの声が騒がしいまちで
わたしは押し黙る
俯いたまつげの振動を
じっと、みつめる
鉛が住んだ、きみの指のことと
静寂を話す声。
黒目のつや消しに走るカーテンが、
わたしに
今日も夢を見させる。
白む空の次に
ひとは目覚めようとする
その意味を
きみや、わたし
それから
向かいの席の若者たちは
よく知っていて
それに従っている
きみが席をたったことで
掻かれた床の音が
その、引き金になる
カーテン越しの夜明けに、
きみは腕を敷いた。
6時の鐘が鳴って、
その日
わたしは起こされたのだ。
***
油染みの重なったプリーツ
ゴムに変身した林檎と
終わらないしりとりのこと
寝転がった長机が
ゆりかごの真似
偽者の蔦とふたりきりの夕べ
わたしもきみも
いずれ、変わってしまうから
その
当たり前のために
こうして
断片を植えつけていく
ヒーローになりたかった。
ヒロインではなく、だ。