モスラ
ばんざわ くにお
ミカは小さな青虫を一匹飼っている
ママがスーパーで買ったキャベツに
それはついていた
ママにお願いして
捨てずに飼うことにした
きれいなアゲハ蝶の幼虫かも知れない と
ミカは思った
小さなアパートでは
犬は飼えないし
父親のいない一人っ子の留守番は
淋しいから
毎日キャベツをあげて
青虫が食べるのを
飽きもせずながめていた
小学校の教室で
ミカが青虫を飼っていることが
うわさになると
おきまりのいじめっ子が
蛾の幼虫を飼っている気味の悪い奴だ と
水を得た魚のように
ミカのまわりを泳ぎまわった
おまえ それはモスラの
幼虫じゃないか
いじめっ子がからかいだす
モスラってなに?
おまえ モスラも知らないのか
蛾の怪獣だよ
しかし
ミカは鈍感な女の子だった
それに
夏休みの自由研究に選んだので
先生にほめらて
それ以上いじめるものは
いなくなった
青虫はどんどん大きくなって行った
やがてさなぎになって動かなくなった
ある日の朝
それは蛾に羽化した
ミカの期待したアゲハ蝶ではなかった
ママがいやがったので
蛾の入った飼育ケースは
ベランダに出した
その夜、近付いてきた大型台風で
大変な風雨になった
一晩中、それは続いた
ミカの夢の中にも大変な夜の風雨が
出てきたが
それは台風によるものではなく
巨大な2匹の蛾
モスラが接近してきたことによる
風雨であった
2匹の親のモスラは
羽化したばかりのわが子を
むかえにきたのだった
モスラによる風雨で
まわりの家々は吹き飛び
羽化した蛾は
モスラに抱かれて
南方洋上のふるさとに
帰って行った
朝 目が覚めると
ベランダに置いてあった飼育ケースが
フタがあいた状態で
ベランダにころがっていた
中にいた蛾は
いなくなっていた
夏休みが終わって
自由研究の提出があった
ミカの観察日記には
蛾ではなく
羽化したきれいなアゲハ蝶が
描かれていた
りっぱな自由研究ね と
先生はまた、ほめてくれた
ミカは親に抱かれて
ふるさとへ帰って行った蛾を
うらやましく思ったが
さすがにそのまま蛾を描けるほど
鈍感でもなかった
あの蛾は
今頃どうしているのかな
学校の帰り道に
ミカは思うのであった
【後記】
マンションのベランダで自作の水耕栽培装置を使ってチンゲン菜を栽培して
いる。5月から害虫防止用の目の細かなネットで栽培装置全体を覆って
栽培していたが、昨日、青虫が作物全体を食い荒らしていることに気が
ついた。ネットを掛けていたため、ネット内の作物の状態がよく見えず
発見が遅れたのだ。青虫は4匹いた。
しかし、どうやって青虫がなかに入ったのか? 考えた末の結論は作物の葉が
ネットに押し付けるくらいに成長していたので、ネット面から蝶が容易に葉に
卵を産みつけることができたのでは ということだった。
産みつけられた卵は孵化した後はチンゲン菜を食べて生きていくしかない。
これは人間と同じではないか。産まれたからには生きていくしかない。
4匹の青虫を近所の草むらに置いて帰ってくる途中、小さな女の子達と
すれ違った。その瞬間にこの詩が産まれた。