都市風景(61〜80)
草野春心

  

  61.

  半規管の殺風景
  宇宙を感じ
  宇宙に感じられること

  62.

  包帯を巻かれたマイクロフォンで
  肋骨にヒビが入った空気を震わす

  63.

  退屈を重ねて我々は何処へ行くのか
  我々を重ねて歴史は何処へ行くのか

  64.

  ところてんのように生まれ
  ところてんのように死んでゆく僕たち
  ぬるぬるした悲しみの残滓さえ
  誰かに舐めとられてしまう

  65.

  どこかで
  いっせいに
  窒息してゆく金魚たち

  66.

  ひと粒ひと粒が呻くような汗を纏い
  道化役者は夜に惑う
  手品のネタは尽きてしまった
  紙芝居のネタも尽きてしまった
  道化役者は夜に惑う
  行きたい公園ももう無い
  行きたい場所ももう無い

  67.

  きみの心に茂みがあって
  僕はそこに
  つめたい蛇を放つ

  68.

  一角を残して氷山は溶け
  僕たちは一つ一つの海

  69.

  光は
  おぼろに現れ
  鮮明に消えてゆくもの

  70.

  五兆六千四百億二千八百三十万九百十二本の
  雨が降る

  71.

  掻き瑕にまみれた
  夏のほそい腕に抱かれ
  陰気なドブの臭いのほうへ
  純真はふらふら歩いてゆく……

  72.

  ながい休符のあとに何が待っているのか
  奏者らはいっせいに息をひそめ
  空席になった指揮台を見上げている

  73.

  憎しみはびたびたと音をたてて
  柔らかな臓物を鞭打つ

  74.

  ビルの屋上から正義の味方は身を投げ
  ショッカーか何かに生まれ変わろうと考えている

  75.

  ミスタードーナツのレジ台にしまいこまれた
  疲弊した貨幣

  76.

  子どもの目に映るのは不動の月
  彼らの世界に寄り添う月……
  大人たちは色々なものを動かしてしまう
  動かしてはいけないものまで

  77.

  ついえた一日が灰となり
  水たまりを汚してゆくとき
  無関係に
  無感動に
  我々自身の軟質な虚像が
  堪えきれなくなって欠伸をする

  78.

  我々にとって
  生きている時間よりも
  死んでいる時間の方が遥かに長い

  79.

  愛さえあればと言う女の濡れた唇
  アンパンを頬張りコーヒーを飲み込み
  暗がりの中で蠕動する彼女の肉体の
  いったいどの部分が愛を求めるのか

  80.

  赤子の微笑みさえもときとして欺いている
  欺きはいつも欺かれる者の側にある




自由詩 都市風景(61〜80) Copyright 草野春心 2010-07-02 11:00:17
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