『残さるる』
ま のすけ







  大勢の声と、笑いと、熱やそういったものたちが、

  フッ  と とぎれて、

  気が付けば

  取り残された私を覆う

  いつもの駅の案内の音声と

  改札の外に外を創っている雑音


  平穏な中、

  外殻を外殻通りに見せている私ではあるけれど、

  中味はどうだろう


  ゆうべ きのう きのうの朝 と

  遡って記憶をたどってみても

  いま甦るのは、もうすでに実体をともなわぬ幻影だし、

  つまりは知覚不可能なアミノ酸らの起こす化学反応でしかない。


  おおぜいのオジサン・オバサン達が、

  バスの中最後に歌っていた「今日の日はさようなら」

  6回繰り返したら、記憶と残るか?

  9回繰り返したら、側頭葉の細胞に皺が刻めるか?


  (などと瞬間揺れたとて、

   実際には、そんなことするはずもないのだけれど )


  わたしが、誰かの記憶に残ったろうか

  わたしの微笑みが、記憶にのこってくれたろうか

  わたしの微笑みのウラにあるささやかな哀しさが

  誰かのどこかに、やわらかな共鳴を起こしたろうか

  時間が、時間が、時間が、人が、

  なにかを載せ、なにかを沈め

  遠くへ移動する。

  
  

  *団体旅行という、ある意味「非日常」からの帰還に
   うまれた詩です。


自由詩 『残さるる』 Copyright ま のすけ 2010-06-20 03:33:52
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