月と骨
水川史生

月を投げる所作で骨を嬲る

あなたよ
速度を落とし日に暮れ呼ばれ遊ぶあなたよ
春が待つようにして 白く落ちた嘆きがあるのだ
知らずして手をやる 水に揺れたのは破片であったか

例えばの永遠、と名の付く直線に 削られる あなた
柔らかに耳を 鼓動を穿ち沈黙を制す
描かれる新しい階段に安らかに身体をもたせ掛けている
唐突に暴かれる希求から 放て
抗えぬ暴発を夢見ては痙攣する 穏やかに酸化した
早々と落ちる昇降機に 断線を突き付ける最中
溺れるような化学物質を 燻らせて飲む あなた
さんざめく枯れ枝が
誤謬を指摘した 晴れ上がる前の昼であった
色の飛んだフィルムで ゆるやかに呼吸を写し取っては泣いたのだ

皹割れたのがあの空であったように
裂かれた余波は戻らないのだから
濡れた あなたよ
首に当てた花びらの有毒性
終える時にきらめく 華やぐ 祈ればこそ
背を撫でては雫をこぼす あなたたれば
もう先へと走らずにいる
翔けているあれは 死に急ぐのだ
遠ざかるのだろうけれど 景色 体温 ありふれる水彩
瞼を曇らせなさい、あなた
臆さずに逸る寂漠の 押さえられた紙片が雪のように舞って
囁かれる夜の果てが
偲ばれるあの冬があったのだ

誘引される一手から 酸性 ガソリンの匂い
塗り潰される眼に 逆さに廻る青 あなたが飲み干す
悲しくあるのだと告げて口移したのはいつだったか
残滓が未明に辿る
浮かんでは街灯を 躊躇わず去る撃鉄の音
引き寄せられた製図にいくつもを記す 記すペンが鳴くライン
やがては消えるのだから
そこには優しい声があるのだ
触れる 音律のように

あなたよ
震える指先で愛おしく
骨を食んだ あなたよ
僅かに爪を立てたあれが月であったのだ


自由詩 月と骨 Copyright 水川史生 2010-06-19 17:16:29
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