砂塵の街
ベンジャミン

砂漠のように乾燥して
地球を一周してきたような風が
ビルという山脈の間を駆け抜ける
巻き上げられたように歩く
人の群れの行く先は
小さな箱みたいな
壁に閉ざされたわずかな隙間だ
敷き詰められた砂塵のように
あるいはそんな隙間を埋めるために
様々な感情がひしめいている
あらゆるものが削られて
その欠片がまた砂塵となる
どこまでも渇いている
どんなに雨が降っても潤うことのない
此処は砂塵の街だった
あまりに多くのものが降り積もって
その圧力に耐えることに精一杯で
そんなふうに生きることが
何かを風化させている
やさしさや いたわりや
おもいやりや きづかいや
けれど何一つ特別なものはない
誰もが持っているはずのものだ
此処は砂漠ではないのだから
突然のオアシスのような偶然でなく
視線を少し上に向けて
渇いた風に吹き上げられた
細かな砂の一粒に気づくことは
それほど難しくはない
此処は砂漠ではないのだから
もしも誰かの哀しみや淋しさが
どれほど小さな砂粒に見えても
ただ生きることに精一杯で
そんな些細なことを
些細に受け止めることしかできなくても
砂塵のようなこころがざわめいて
わずかでも知ることができるなら
そこに一粒の涙をこぼし
この渇いた砂塵の街に
大切な緑を育ててゆくことは
きっと難しくはない
わたしたちはどんなに削られても
そんなやわらかい所までは
きっと失ってはいない
此処がたとえ砂塵の街であっても
砂漠ではないのだから


自由詩 砂塵の街 Copyright ベンジャミン 2010-06-13 21:55:22
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