あのポスト
たりぽん(大理 奔)
学生時代に旅した外国で
たくさん手紙を書いた
両親や兄弟や友人へ
砂漠に近い
ひどく乾燥した扇状地の街
ボロっちいホテルの一室で
二度とはき出せないような
甘い寂しさの詰まった手紙を書いた
(大切な女性に)
ホテルの受付カウンターに組み込まれた
古ぼけたポストに
それは必ず投函された
私がその細い隙間の奥に
手紙を押し込んだのだから
結局、その手紙だけが届いていなかった
詰められた言葉はどこに消えたのか
ふと、夕日に染まった岩山の見えるホテルを思いかえす
手紙はまだあのポストの中のあって
勇気を振り絞った私の言葉を
人知れず抱えているのかも知れない
そしてポストはこの胸の中にあって
あの暗闇とつながっているのかも知れないと