Tonight Tonight
かいぶつ

ここが僕の新しい寝床だ
うず高い廃家電のベッド
人懐こい重油の匂い
腹の虫をアジる革命のような
焼き立てパンの香りも
まさかここまで追ってきやしないだろうから
もう安心して唾液を胃に刺せる
満ちた月さえ見上げなければ
 
どんなに歯並びの悪い女のような町並みでも
小高い丘の上から眺めると
少しは性格がマシに見える
みんな黙っていればカワイイのに
いたずらに対話し うわさ好きだった空は
今、星屑ほどの食卓のために
夜を一枚、新調する

肌はまだ持ち帰った昼の微熱をまとい
歩きつかれたはずの体が
眠りを細かに砕く
頭だけは冷たい台所のように
生やさしい感情が立ち入ることを拒み
耳の奥にある製氷装置が
水の融点を越えるたびに
歯を擦り合わせるいやな音を立てるのだ

僕はまた歩き出せると思う
こうしてこの捨てられた冷蔵庫の上で
中に閉じ込められたままの
吐息の白さを想像しながら
プラチナの海が良く似合う深爪の月に酔い痴れて
長く、暑い夜さえ明かしてしまえば
匂い立つほど新鮮な幸せと不幸せが
荷台に乗せられ二次配布されて行くから

不着のままの僕もまた
明朗な一葉の便りとなって
雨に濡れ泥が付こうと
どこまでも、どこまでも
懐かしい受取人の待つ
町を探して

夜行列車の灯が僕を一瞬めくらにする
僕は思い出す
幸福と空腹が寄り添っていた
あの頃の僕たち


自由詩 Tonight Tonight Copyright かいぶつ 2010-06-06 02:17:41
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