喫茶店にて
八男(はちおとこ)



白いワンピースは洗濯ものになって
草原を漂っている

小鳥たちは鳴きちぎって
草の先をピンと張らせている

あいつの口は買えないものが買えなくて
買い方もわからなくて ただ窓を怒号で叩いている

あの店内で流している曲のタイトルは
全て「生ビール」だと思って聞いている奴

魚は生臭い
生臭さが聞こえない所へ行きたい
宇宙のどこもかしこも 生臭い
焼き散らすしかないんだと
くどくど親戚のおじさんはおんなじことばかり

樽を転がして遊んでいる子供

ヤマザクラは気球になるまで散らない

愛していると一万回言っても本物にならない
それはいつまでたっても電車にならない画用紙のそれだ

なにも言いたいことはありませんと言うと
いいやそんなことはないはずだ
なにか言いたいことがあるはずだ
おまえはいったいどう生きたいんだ
さあ言ってみろと 喫茶店で追い詰められて

時間がないんだ はやく言え さあ言えと


泣いて 泣いて ただ泣きじゃくって
とりあえず この世界を揺らしてみて


どうでしょう こんなに揺れているんですから
ここのところは揺れているということで許してもらえないでしょうか


いいや許さん


もうあなたも見えませんし あなたの言葉も
幻聴程度にしか聞こえません
それくらい泣くじゃくってみましたから

いいかげん どうでもいいことだから
はやく寝なさいと母の声が聞こえるようでもありますし

布団の中の夢ということでここは許してもらえませんか
あなたは夢の中で降りかかってくる硫酸ですか
私は風景というだけでそれでいいじゃないですか
これ以上どうやったら月になれるというんですか


いいやそんなポーズをとったって許さん

ちょうちょ結びになりなさい



こうですか こうですか



だめだまだだ


もっとですか もっとですか


そうだもっとだ


ちょうちょ結びになれましたか
かなり痛いんですけど



もっと固くくくりなさい


ああ 泣いている 涙が汁になって垂れています








自由詩 喫茶店にて Copyright 八男(はちおとこ) 2010-05-31 11:17:47
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