人魚伝説
朧月

あなたが無造作に
がたりと置いたので 本を
びくりとした私は
月を落とす

空に掲げようと
抱きしめていたのに
地に落ちたからには
もう
生まれる気配はない

あなたが口ずさんでいる
うたは 海の
底の響きににているから
身震いした

海底からやっと
這い出てきたのに
あなたがもう
無関心でいるせいで

僅かな振動にも
この身は縮んで
永遠と呼ばれるものでさえ
崩してゆく

あなたが不機嫌を
閉じ込めないから
私はそれを吸収して
産み落としてしまう
よからぬ思想を

雄と雌との
伝説はいつの時代も
ほんのわずかなひずみで
永久にたがえる



自由詩 人魚伝説 Copyright 朧月 2010-05-29 22:25:49
notebook Home