『もう夏が来る、そんな気がした』
ま のすけ

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  ワイヤーの入った
  硝子の向こう
  街の暗闇を
  雨粒がはしる
  必ずしも重力方向という訳でなく

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  夜が零した水なのか
  傘を滑り落ち
  1秒足らずのうち
  革靴のつま先に弾け
  その後、暗さの一部と同化する

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  雨がやんで
  買い物に出かけると
  月がふらりと降りて来て
  肩先へ停まる
  五月はもう終わりを告げているか

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  既に、夏に近い空があり
  青葉・若葉が大きく風に揺れながら
  陽射しを浴びている
  人様の勝手な植樹によるものだとしても
  その緑が今の私には素直に美しい

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  鯛焼き屋の親爺が死んだ
  なぜだか知らないけれど
  自分と顔をあわす度
  「僕も旅に行きたいね、旅に」と。
  彼には自分が旅人とでも見えていたのだろうか

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  山間の、水が張られた田に
  その大きさの空
  その大きさを陽光ひかり
  更に、その大きさを
  ほんの一回り大きくした希望が存在している

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  影が
  濃さを帯びる
  眼を閉じるたび
  まぶたの裏には過去ばかりが甦る
  もう、そろそろ、そんな季節か

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 ※件の作品は、すべて五行で作られていますが、
  特に「五行歌」を意識してのことではあり
  ません。どちらかというと「五行詩」に近い
  ものであろうと思います。(作者)


自由詩 『もう夏が来る、そんな気がした』 Copyright ま のすけ 2010-05-29 00:00:07
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