歌と踊り
渡邉建志

 
歌と踊り
    
                失った恋人に



歌と踊り1



それはむかしの
それはおおむかし
ひとのいないいえ
あれはてた草地

わたしはひとりあるく
わたしはひとりあるく
ひとのいないいえ
あれはてた草地


踊り

それはそれは暑い日のこと
あの部族がやってきたのは
それはそれは暑い日のこと
あの部族がやってきたのは

彼らはギターを弾いてよく踊り
花を植えた
彼らはギターを弾いてよく踊り
花を植えた

それはそれは暑い日のこと
あの部族がやってきたのは



歌と踊り2



(波立った湖に月の光が明滅する)
(男がひとりで見ている)
あきらめた―
あのひとの
こころの戸
あけはなたれ
はとがとんで
とおくとおく

にげていく
うしろもみず
(滴る、)
ひかりつつ
(光が滴る、)
とおくとおく
はとがとんで
とおくとおく


踊り

かえろう
かえろう
おうちにかえろう

かえろう
かえろう
おうちにかえろう

あたたかいだんろとごはんと
あたたかい なんかいろいろ

かえろう
かえろう
おうちにかえろう

あたたかいだんろとごはんと
あたたかい なんかいろいろ

かえろう
かえろう
おうちにかえろう

かえろう
かえろう
おうちにかえろう



歌と踊り3




きらきら まぶしいおとが
どこからかきこえてくる
とおもったならそらのうえ
とおもったならそらのうえ

つらなっておりてくる
きんいろのいとのおと
からーん
きらーん


踊り

いったりきたりじゃんぼりーそして
いったりきたりじゃんぼりー

おいかけてコけておいかけてこけて
おいかけてこけておいついたー

いったりきたりじゃんぼりーそして
いったりきたりじゃんぼりー

なんだかいったいわからない
そんなひとはおいてけぼり

いったりきたりじゃんぼりーそして
いったりきたりじゃんぼりー

おいかけてコけておいかけてこけて

おいかけてこけておいついたー

いったりきたりじゃんぼりーそして
いったりきたりじゃんぼりー

なんだかいったいわからない
そんなひとはおいてけぼり
おいてけぼりさ

ひどいやひどい
やんややんや

なかまにいれろよ
やんややんや

(放送)
「市から発表です!新しいじゃんぼりーが
巨大な予算でもよおされます!」

(エコー)
「市から発表です!新しいじゃんぼりーが
巨大な予算でもよおされます!」


そうかい

そうかい



歌と踊り4




よぞらのほしにおねがいを
おねがいを
となえてみれば」

となえてみれば?」

(瞬く、薄い光の幕)

なにか、なにかね」

ねむくなっちゃって」


踊り

たゆたい たゆたい
たゆたい ながらろーるする

ゆめのなか
やくそくのきみと
おどるやくそくをしよう
いつのひかおどるやくそくをしよう

たゆたい たゆたい
たゆたい ながらろーるするわたしたち

わかりやすいものと
おいしいものがすきだ!」

わかりやすいものと
おいしいものがすきだ!」

いきるいきるいきるいきるいきるいきる
それは
まわるまわるまわるまわるまわるまわる
こと

たゆたい たゆたい
たゆたい ながらろーるするわたしたち




よぞらのほしにおねがいを
おねがいを
となえてみれば

ほしがあたたかく
わたしにひかる」



歌と踊り5




いき いき か えり
を たてて あるく
かぜがしずかにふいて
だけど ぼくの いく
べき べき みち みちを
しめ しては くれず
うえむいてあるけば
ほしも でて いない


踊り

きりがはれてみえはじめる
くうちゅうのふろんと

きりがはれてみえはじめる
くうちゅうほてるのふろんと

いらっしゃいませとへんじをするのは
せのたかいおにいさん

「すきとおったおとのベルにあわせて
 ワルツをおどりましょう」

(花嫁になれるとよいね)

すきとおったおとのベルにあわせて
すきとおったホテルのロビーで
すきとおったおにいさんとおどる



歌と踊り6




母さん!どこへいった
かえってくるって言ったじゃないか
三千里 歩いたって
くたびれた靴が 残っただけ

父さん!どこへいった
かえってくるって言ったじゃないか
わたしひとりでいえにひとり
まどをあけてとおくを

みつめつづけて5年間
みつめつづけて5年間


踊り

12時 長靴が踊りはじめる
12時 運動靴が踊りはじめる
12時 革靴が踊りはじめる
12時 ミュールが踊りはじめる
履くひとはだれもいない
だれも!
(飛んだ!)

ばたばた
ばたばた
ばたばたとおどる
(見えるか、あれは死んだ人だよ)
(きみのともだちだよ)



歌と踊り7




カーテンのないわたしの部屋
やさしいかぜが はしっていく
寝ころんでいる わたしの上を
春よ春よと 歌っているか

かぜよ とおくまで
そのあかいリボンを
わたしから 「きみ」 に
とどけてくれ


踊り

迎えに来た、昔からの小人たち
むかしみたいに踊ろうよ
朝も昼も夜も
ギターかき鳴らし
鐘を打ち振って

ぼくは「きみ」を待って育った
「きみ」はいま空の向こうに消えてしまった



歌と踊り8




夢破れて 山河あり
河を下りいく 筏あり
ただ流される からだあり

夢破れて 山河あり
河を下りいく 筏あり
のみこまれいく 叫びあり


踊り

ここは素敵なスリッパの花の匂いがするね
白い柵の向こうにはたくさんのスリッパの木と
絵本の木
ピアノの音を聞きながらスリッパはいて
絵本をよむ
絵本をよむ



歌と踊り9




さあみんなかえるじかん
この棒切れをもって空のルーレットを
まわしましょう

おおきいばんごうだして
あがりましょう このゲーム
おうちへ あがりましょう

せんせい ぼく運動場に
(不吉に転がる)
テニスボールを忘れてきた
(とん、とん、とん、とん)

いってらっしゃい
きぃつけて

さあみんなかえるじかん
この棒切れをもって空のルーレットを
まわしましょう


踊り

階段を回って落ちてく
転がるボール
とん、とん、とん、とん

プラネタリウムでつかまえて
そういって逃げるボール
どん、どん、どん、どん

どこまで追いかけて降りていっても追いつかない

階段を回って落ちてく
転がるボール
どん、どん、どん、どん

加速して加速して加速して
ボールと少年は星になったそうです


(そうですか)

(無茶ですね)



歌と踊り10




あいす くりーむ おとして ひろう
あいすくりーむは とけて しまう
そらになげれば こーんだけが
おちてきて あときえた

くりーむ そらへ とけていく
はいいろの くもとなりにけり

あいす くりーむ あまいひと
はいいろの くもとなりにけり


踊り

小間使いはとってもいい身分!
ご主人様のいないところで
お花をつんであそべるもの!
とても適当な生きかたさ
とても適当な生きかたさ



歌と踊り11




きみにはわかるまい 
わしのはなすことは
ただただみみのおくそこにしまっておけばいいのだ
(だーだ、だー)

夕暮れ (だーだ、だー) 暗くなって
(だーだ、だー) 夕暮れ 暗くなって
静かに光る あの子の美しさ

自転車ではしる
街中をはしる
石の道からんからん
自転車ではしる
あの子を追いかける

(だーだ、だー)

夕暮れ あの子のえがお
(だーだ、だー) 夕暮れ あの子のえがお
おもいだせなくなってしまった


踊り

楽しそうに笑いながら
見えないあの子が誰かとともに
自転車で走っていくよ
山の中を 海の横を 星の中を



歌と踊り12




おはなしはもう
おはなしはもう
いいのこしたこと
あのよでいえばいい
おはなしはもう

おはなしは(くらくて)おわり
おはなしは(くらくて)もう
おはなしはもう
サーチライトなく
おはなしはおわり

ああ、あああ
さようならじんせい


踊り

わたしは天王星と冥王星の間の星間物質
「応答せよ」「・・・」「応答せよ」「・・・
ざわざわとうごきもぞもぞとしゃべるくせがある
あいまいもことして わたし くものようだ
「応答せよ」「・・・」「応答せよ」「・・・



歌と踊り13





(息)

聞いてほしい わたしのさいご 歌う声を
聞いて ほしいひとは もういない どこにもいない
     
あなたのあしおと あなたのこえと えがおのえ

(息)

聞いてほしい わたしのさいご 鳥の歌を
聞いて ほしいひとは もういない どこにもいない



踊り

宙に浮かぶよたましい
あちらこちらたのしげに

宙に浮かぶよたましい
あちらこちらたのしげだ

「応答せよ」「やああ、なんだい」

宇宙に閉じる帳 浮くホテルフロント
明滅する信号の光…

とてもたのしげだ

 


自由詩 歌と踊り Copyright 渡邉建志 2004-10-09 02:22:17
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