What She Said
寒雪



彼女は
いつも高架の上で
行き交う電車を見下ろしてる
僕がそばに近づくと
物憂げな視線を
僕に投げかける
彼女は言う
どうしてみんな靴が汚れているの
穴が開くまで履き潰さなくてもいいじゃない
それにサイズの合わないこと甚だしいわ
誰も気付かないなんて変よ
僕は黙って彼女の横顔を見つめてる


彼女と
珍しく二人でドライブに
流れる景色を目で追うこともせず
物憂げな視線を
フロントガラスに投げかける
彼女は言う
何であの人が私の彼氏なの
あたしの好みじゃないし
性格も最悪だし
嫌なことばかりが目につくわ
でも
今の生活にどっぷり肩まで浸かってる
避けようと思ってたこの状況に
僕は笑って車を走らせる


彼女が
雑踏の中
一人だけ立ち尽くしていた
声をかけると
物憂げな視線を
通り過ぎる他人に投げかける
彼女は言う
どうしてあなたはあたしの友人なの
別に今通り過ぎていった人でも
飛行機で何時間もかけないと
行けない場所に住んでる人が
あたしの友人でも構わないのに
でもあたしはあなたの友人
宝くじとどっちがよく当たるかしら
僕は不意に手を伸ばして
彼女の頬を餅みたいに引っ張る


彼女に
ある晴れた日
養老院の前ですれ違った
すれ違いざまに
物憂げな視線を
僕に投げかける
彼女は言う
どうしてみんな長生きしようとするの
すがり付けるものが何もないのに
そのくせ煙草なんて吸って
ほんとにおかしいわよね
僕は彼女に言葉を返す
何もないと本当に死んでしまいそうさ
たとえ煙草でも支えがあるだけ
まだましなのさ


自由詩 What She Said Copyright 寒雪 2010-05-26 07:00:20
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