若葉はしらない
千波 一也



若葉はしらない
なんにも、しらない
ともすれば己が生きていることも
すっかり忘れて揺れている

瞳のあかるいひとや
髪の毛のうつくしいひとや
ことばに潤いの満ちるひとたちの
名前をいちいち若葉はしらない

永遠というものがあるならば
一枚の、一瞬のみどりが
必ず続いていくということ

おだやかに涙するひとも
いそいそと砕かれてゆくひとも
若葉はしらずに、ただ揺れている





若葉はしらない
ほんとに、しらない
うっかり枝から落ちたとしても
嘆きもふさぎもせずにいる

おそれる、という
心そのものや意義や足並みや
おそれと対峙することの諸々を
しらないことさえ、若葉はしらない

捨て去れなくなったものが
増えすぎてしまった
ひとの目に、指に
若葉はいつも懐かしく、清々しい

命の不思議と哀しみを
喜ぶように若葉は、ただ若葉である








自由詩 若葉はしらない Copyright 千波 一也 2010-05-23 12:27:15
notebook Home 戻る