書物の家
ベンジャミン

何本かの鉛筆と
何本かのペンと
何冊かのノートや
散らかった書籍が在って
散らかった書きかけの物語のような
続き話が転がっているところに
書きたての新鮮な言葉が
跳ね回っているのです
当然ながら
あれこれ考えている自分と
すらすら書いているような錯覚と
無造作に完成した偶然が
ときどき私を喜ばせてくれますが
それは本当に稀なことなので
たいていがそのままの
ただの書物として
意味を欲しているところに
何と無力な私しかいないことが残念で
物書きならば物書きらしくありたいのは
もしかしたら私よりも書物のほうが
気持ちが強いのかもしれません
なのでいっそう私は
懸命になるのが望ましいのでしょうが
言葉というものは生きていますから
するりするりと逃げてゆくのには
もうすっかり慣れてしまいました
せまい家の中での
まるで追いかけっこや鬼ごっこ
はたまたかくれんぼのようです
もういいかい?
(まーだだよ)
もういいかい?
(まーだだよ)
そんな幻聴が聞こえてきたら危ないので
あまり窮屈に考えないようにしていますが
なにせ鉛筆やらペンをにぎったら
私はまるで人格が変わったように
終わるはずもない終わりを求めて
いっこうに書くことを止めませんから
まだ見ぬ言葉を書き集めようと
家の中にドンと敷いた布団の中で
そんなことを繰り返しています

 


自由詩 書物の家 Copyright ベンジャミン 2010-05-19 02:13:28
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