編曲0527 / ****'91
小野 一縷





疲れ果てた太陽が垂れ落ちる
代役の月は殺伐とした太古の鏡
さて 頭の中で響いてる掘削機の空回りを
加速させるとしようか
萎みかけた太陽が 最期の一瞬きで
永久凍土を水浸しにする間
この旅を 青銅を侵す緑青の速やかさで奏でよう


虫たちの混声と光が調和して呼吸と脈拍が同調する
盗人と見張り役の話し声は雨に溶け落とされ
機械の血脈の高まりと伴に目を閉じたここで響く音階は円を描く
忘却の太鼓が鳴り硬質な非金属の行進が始まると
不安が快楽へと怒声を掲げて反転する瞬間
無音と無明の息吹が押し寄せて 
折り重なる明日以降は未来からの脱落を申し出る
中耳を突く万年筆の先端の割れ目の警笛で
疑惑という痴態を剥き出しにする
無知は力強く畏怖を駆逐し
晒された衝動は指先を切る羽の鋭利
捨て去られ偽名を得た自尊心は稲妻の力を持つ
冷たい痙攣と途切れ途切れの温もりに溺死して
少年は望むべき未開の愛を知る
薄れゆく同心円の回転が帰還の告知を遠投して
肺胞の振幅が止む時 
吐き出した息が気流を生んで狂気の香気を鼻腔へ運ぶ
汚される為だけに交わされた約束は罪人として吊り下げられ
彼が恥じるしなやかな肢体は魅力にあふれ
見世物としてはあまりに誘惑にあふれ
可憐だった花は予想外に分厚い花弁から
蜜を滴らせ充分熟れて腐って堕ちた
粉々に砕いた自我の片鱗はとこしえに輝きを放つ


混沌たる正否善悪の最果てに 連なり重なり合う言葉たちが
運命の只中に沈黙する使命を呼び覚まし 連れてくる 
ここに 刻み落とされ震え出す命の高鳴りは
過去を不在へと掻き消し 現在だけを象徴し 祝福する
そして新章は開かれる


失堕者の無垢が 世捨人の衰弱が 水面の境界線を破り
湖の奥深く隠された女神像を 悠然と浮上させる 
彼女の微笑 希望が飛沫の輝きを借りて 彼らの頬骨を抱く
濡れて 密やかに錆び始める生命
老いの程近くに佇む 忘れ去られた夢
思考の完全停止の背後に見え隠れする絶対
死と名付けられた限りなく薄い膜
重圧な輝きを放ち 透かし見ることすら適わぬ皮膜
その縁を記す 開始と終末の 分岐点
路上で弾いた硬貨の 表と裏の中心に 行先を賭けて
失望と歓喜が 次々と連なる遁走曲に乗せて
詩を歌う





自由詩 編曲0527 / ****'91 Copyright 小野 一縷 2010-05-16 21:15:42
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