生まれ変わる
殿岡秀秋

荒川放水路にかかる鉄橋に
次兄とぼくは向う
川の土手にある踏み切りから
線路にはいる
手をおくと微かな震え
枕木に膝をついて
線路に耳をつける
太鼓の低い音
「電車がくるぞー」
ぼくらは買ったばかりの五寸釘を
それぞれに線路の上へ置く

鉄橋の向こうに
点になって現れる電車
ゆっくり蜃気楼のように膨らみながら
こげ茶色の車体は
鉄橋を渡りはじめる
ふみきりの遮断機がおりて
警報器が吠える

ぼくらは踏み切りを離れて
土手の草に頭をかくす
五寸釘が飛んでも
当たらないように離れて

電車は通りすぎるときに
「イタズラスルナ
アブナイジャナイカ」
と警笛を鳴らす

遮断機があがった
土手をよじのぼり
五寸釘を探す
枕木の下の石ころのあいだに
轢かれたばかりの五寸釘
死んだのではなく
生まれ変わった

「あったぞ」

平らになって
先端が鋭く尖って
光る五寸釘
大切に家に持ちかえり
縛りつける
手製の銛の先

庭で獲物に投げるまねをして
遊んでいたら
次兄がふざけて投げた銛が
ぼくの腕に刺さってしなった

次兄はあわてて
オキシフルで消毒して
包帯をまいて
「お母さんには黙っててくれ」
と頼んできた
次兄の弱みを
突き刺すように
ぼくは何度かうなずいた


自由詩 生まれ変わる Copyright 殿岡秀秋 2010-05-14 06:39:23
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