Many Rivers To Cross
ホロウ・シカエルボク
置き去りのボンティアックの錆のオレンジ
助手席に腰かけたままの
過去を
騒がせぬようにと気を使うみたいに
ゆっくりと
やさしく吹く風
口笛を乗せると
母親を思い出す
そんな暑い春の
お前はまるで
間違いで届いた
印象的な誰かへの絵葉書
あるはずのなかった交わりなのに
触れたその時をいつまでも思い出す
不器用な鳥のような
無骨な影を滑らせて
知らない国へ飛んでゆくジェットエンジン
強力なうねりが
俺たちという生き物の
限界を描いている気がした
もう使わなくなった
ダイヤル式の電話で
まだ忘れたことのない
数字を回したら
変わらぬ声が
聞こえてくる気がして
半ば本気で触れて笑った
ジョー・コッカーは
叫べなくなってからの方が美しい
そうだぜ
叫んでいたという過去が
彼をそんなふうに見せるんだ
俺たちが生きているのはいつだろう
いつかと今日と
明日を
とっかえひっかえ
そうして
どこに落ち着くのだろう
渇いた世界の
太陽が目を焼いた
置き去りのボンティアックの錆のオレンジ
紺のクロッシェのお前が
助手席から細い腕を差し出して…