そよ風の便り
寒雪
机の前に座っていると
私の耳に聴こえるのは
静寂の中
静かに通り過ぎるそよ風の行進曲
そろそろ
私にも
旅立ちのための
どす黒い片道切符が配られるのだろう
気がつけば
何回
早春の頃の雪下雫を
初夏の頃の青春を
処暑の頃の早稲田を
真冬の頃の埋み火を
この狭い
コンクリートで塗り固められた部屋で
見送ってきたのだろう
私も長く
ここに居座り過ぎたのだろう
それゆえ
明日の朝には
手続きが始まるかもしれない
けれども君よ
私は彼らに屈服することはない
私はなに一つ後ろ暗いことはない
私はなに一つ疚しくないのだ
彼らの述べる罪状は
彼らの鉛筆から紡ぎ出された
頭の中で演じられる物語に過ぎない
そこに私の配役は必要ではない
私の心は
極寒の地で
誰にも知られず降りしきる
柔らかな新雪と同じほど
汚れを知らず真っ白なのだ
このまま
もし死ぬことが出来れば
私は勝利する
彼らが
私をいかに陵辱しようが
監禁しようが
侮蔑しようが
彼らはついに
私を転向させることがかなわない
それを
証明出来る機会なのだ
だから
次の世界へ
旅立ちの不安などなにもない
その瞬間
私は笑顔で逝くだろう
だから君よ
その日も通り過ぎるそよ風が
私の声を伝えてくれたら
私と同じように
笑顔で見送ってくれると嬉しい
それが
私の
最後の願いなのだ