東梅田駅8番出口
中原 那由多
中洲に立ち止まった時間
初めてなのに何故だか懐かしくて
辿った記憶の終着点には
少年が笑いながら花を引きちぎっていた
涙腺をどこかに落っことしてしまったことで
確かに愛は死体となった
反対側の車線に見つけたカーキ色は
自分に少し似ているような気がしてならない
改札口の向こう側では広告だけが楽しそうにしている
暗がりから逃げているのか、あるいはそこへ向かっているのか
どちらにしてもホームの床は汚くて
乗換のための通路は体感温度が2℃低い
エスカレーターの右側に立つ人達は
ほとんどが重たそうな荷物を抱えていて
ポケットに手を突っ込んでいた私は
中の切符が少し折れ曲がっていることを気にしていた
甘い匂いの先は洋菓子店
乾いた音の先はストリートミュージシャン
並木道は汗ばむ陽気をすりおろし
四車線の道路はいつまで経ってもやかましい
青春の無駄遣いだと言いたくなって
近頃は夢を見なくなったことに気付く
レールから解放された代わりに
鍵のようなものを落としてしまったのかもしれない
まばらな光はずっと遠くまで
ガラス越しに掴もうとしてすぐ止めた
ここには全てが揃っているだろうけど
欲しいものは特に思いつかない
ICOCAで再び改札を抜け
イヤホンと一緒に周りから孤立すると
夜は、途端に短くなっていった
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