「歌姫」
月乃助

飛行機雲の航跡が
壊されていく
四角い空

紺碧色

天へと続く
巨きな螺旋形のオブジェにもたれ
名も知れぬ女が歌う
くたびれたシャツをまとい
ガラスのビルに閉じ込められた
小さな広場の
通りに住まう歌姫の
澄み渡る歌声

教会で耳にする
賛美歌の おごそかな響きにも似た
それは、悲しみでも
通りに生きる狡猾さでも
まして、弱さや怒りとも違う

声音こわねは、反射するガラスの壁を
ひと時 彷徨い
水のはじかれたように 流れるように
消え去る

(あそこで壊されるのは、決して拒絶ではなく、
一つになる喜び かもしれない)

広げたジャケットに落とされる
わずかな小銭の音
誰も足も止めずに過ぎ去るだけ
確かに、私もその一人なのに、

ここからも空が見えるのですね、

女の見つめる小さな空に
細く消え去る雲を見上げながら
あそこまで、お前の歌が届いている
だから あきらめず
どこまでも、いつまでも
歌い続ける





自由詩 「歌姫」 Copyright 月乃助 2010-05-02 16:51:56
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