マリネ
斎藤旧


布のなかに

たふたふに埋もれたわたし
手を伸ばすこともせず
のどだけをもち上げて
ことばを向こうに投げていた

ことばはいつしか完全で
組み合わせだけで無限で
それに夢中になるあまり
すべてをわすれていった

外国語を操るような
海を渡ったこともない
センセーショナルな
能を持ったこともない

ことばはすべてを可能にした
わたしを魔術師と呼ばせた
少なくとも、わたしの中で
わたしはすべてを知ったのだ

しかし布の中という
たふたふしたものは
けしてすべてではなかった

すべてを知らないわたしは
知っていかなきゃいけない
そのためにはことば以外で
知っていかなきゃいけない

待ちわびたバスが
漸く小さく見えた
揺られて見る何かに
会いたいと思った


自由詩 マリネ Copyright 斎藤旧 2010-05-02 02:47:45
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