PASTICHIO MEDLEY
本木はじめ
いつまでもそうやってそこにいなさいかみさまとみんなはあなたを呼んでいるけど
まだ誰も知らない土地でひっそりと虹の種など埋める秋の夜
悪だくみしてもいいけどもう二度と砂のお城は作れないわよ
有刺鉄線飛び越えて楽園目指すはるか昔の服の切れ端
その帯を引っ張りなさいそうすれば明日への扉が真っ赤に開く
さよならと別れを告げたあともなお追い駆けてくる放課後のきみ
連絡船彼方に見える沖合いで帰らぬひとを待つかのような
薔薇であったとき薔薇であったとき薔薇であったときのように枯れてゆくのね
遊園地ぼくがまるごと貨しきるよ回転木馬はきみだけのもの
掘り返すタイムカプセル埋めた日のあなたの髪が退色してる
遠くまで走り去ったねもう君はここの秋にはいないんだよね
あの秋の夕焼け見える放課後の教室ひとつ僕にください
手を振ってお別れにする人生が僕だけ置いて楽園となる
止まってる柱時計が動き出す娘が祖母と呼ばれる頃に
振り返るあなたは既に朝だったこんばんはさへ言えずたたずむ
真夜中に街中ひっそり停電すまるで神でも死んだかのよに
川辺にて映す写真の僕らには水のくさりがまきついている
ただひとり夜の廊下に立ちすくむ制服姿のきみのあこがれ
背表紙と表紙だけ見てレジへ行く十五年後に開かれる本
大丈夫わたしはどこもおかしくないよたぶん今は春だと思う
雨が降る秋のプールに飛び込んでまだ泳いでるあの日の僕ら
時間割り停止している教室のぼくらふたりのチャイムが鳴らない
天井を歩いていましたくもとなりやまない雨を降らせるために
地獄へと続くかのよな道を描くモナリザだけを描き忘れて
かみさまがいてもなくてもいつまでも祈っているのだミレーの晩鐘
木々がよく育っているね窓のそとあれは何かなあれは風だよ
森の中誰も知らない森の中誰も知らない森の中だよ
どうしても飛びたいのです物語に描かれそうな今日の青空
イカロスの溶けた翼で作られた蝋人形が見つめる虚空
月光翼ひろげてぼくら飛び降りるもはや跡形もない食卓
空映すヴィデオテープを何回も巻き戻しては願う流星
不眠症黒き羊にまたがりて白き羊を駆逐するきみ
ざわめきだす木々の合間のギザギザの夜空の下でのきみの告白
飛行場降り立つ三羽目の鳥が二度と飛べなくなるかのような
パイロット無数の空にうなされて今夜も枕に墜落してる
憂鬱な午後のフライト雨のなか雲を抜ければ晴れるそれだけ?
高々度旅客機きみを乗せ空へ「さよなら」だけが僕の さよなら
超巨大ジェットエンジン部屋にあり気づかぬ父の新聞燃える
選ばれた僕たちだけが入れます屋根裏部屋の裏の部屋へと
「子供いる?」って聞かれたからくれるかと思いましたよまるで夕暮れ
百年の孤独を抱え今日もまた百一年目を探し歩く夜
ゴゴゴゴゴ轟音とどろかせながら授業はじまる火口の学校
かわいてる羊の水が一滴も僕の身体に無いことを知り
きのうきょうあしたあさって毎日さぼくらは時間にさらわれている
流れゆく雲を追い駆け草原の花さへ踏んでゆくイノセンス
あくまでも天使みたいな顔をしてかみさまみたいな天国にいる
消えてゆく飛行機雲を最後まで見ていたあの日消えてゆく雪
貝殻をひろえば奪う君がいた海よおまえは憶えているかい
爆弾が爆弾みたいに考える爆発しない自己の証明
僕が受話器きみがダイアル持てばほら立派に無意味を体現してる