割れない卵
亜樹

 夜、寝たくないので夜更かしをする。面白くもないテレビをつけたまま、渇いた笑い声を聞いて、インターネットで開くだけ開いて、ぼんやりとしている。日付が変わって、頭が痛くなってきたら、寝ることにしている。パソコンの電源を落とし、電気を消すと、とたんに眠気はとんでしまう。仕方なく、遠い昔の失敗を思い出して、もう会わない人に謝ったりする。
 朝、起きたくないので限界まで寝る。平日はそれでも仕事があるので、時間に間に合うように起きてはいるが、休日は本当にひたすら寝ている。起きたときには頭が痛い。活動するのは昼過ぎで、それもそんなにすることがない。掃除をして、洗濯をし、食事を作って、それでお終いだ。三時のおやつを食べてから、することがないのでただぼうっとしている。昔はそんなときは本を読んでいたのだけれど、最近は視力がひどく落ちて、活字を読むのが辛い。一日に何度も目薬をさす。眼鏡をかけてもあわない焦点に、また頭が痛くなる。
 休みの日に何してるの?、と聞かれると困る。
 何もしてない。
 一日の半分以上は寝てる。
 眠たいわけではなくて、他にすることがないから寝てる。

 それでも時々、どうしても眠れない日がある。そんな日はゆで卵を作る。
 冷蔵庫の中からあるだけの卵を出して――といっても、多くて五個だ――固めのゆで卵を作る。
 煮沸する湯の中で、ぐらぐらと煮て、時々掻き混ぜる。卵の殻がこつこつと鳴る。
 湯だったそれを冷水にかける。そうしてできた細かなヒビに、爪をかける。
 ぽろぽろと落ちる白い欠片を見ていると、なんとなく眠たくなる。

 固い殻を剥いでも、その中にあるのはしっかりと弾力をもった、卵である。
 そのことに安堵する。中身はまだ守られている。

 産まれない雛たちの安全を確認してから、私はまた布団にもぐりこむ。


散文(批評随筆小説等) 割れない卵 Copyright 亜樹 2010-04-19 00:00:30
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