風車のための散文詩 /****'04
小野 一縷
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寂れた風車が ぐらり と回り ぎい と短く 鳴る音を
運んでくる風が 含有する骨粉を 嗅ぎ分ける 臭覚神経の
末端の 鋭さから 染み込んでくる 苦味の
粘付く 痺れに似た この感触を 忘れ去る前に 書き記し 伝えておこう
※
鈍く輝く刀の鋭さで飛空する二羽の海燕の
絡まる飛行経路が描いてゆく無限の標を頼りに
蒼い獣の氷の鬣に想像される
ちりちりと繊細に粉砕された広範囲の痛みは
既に完熟しながら放っておかれた虚ろな甘さと
じんじんと鳴る痙攣の振幅度数と振幅時間帯と
吐気を酩酊に随時変質している胃壁に染み込んで各臓器に光速信号を
疾駆させる熱量との異相交差三次元方程式で血液の液温を示す脳内血流が
0.01秒毎に進む距離数を高速演算することにより各端末神経回路に
微震動伝達を開始する思考発生の構成図を繙くと
さらさらひりひりと脳の中幹部から対流微散する文字の細粒
その微弱な奔出圧力が脳皺をちりちりと刺激し脳内快楽物質
即ちセロトニンとドーパミンそしてノルアドレナリンの
放出・再取り込みの経過と全細胞が自ら死滅へと進み向かう
それら二筋の指向性の完全一致をここに認知する
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脳内言語構成中枢毛細神経繊維を綾取りの要領で弄ぶ
その手捌きの軌道を額の裏奥の頭蓋の血照りに映して追い立てる
両手と十の指の間接の滑らかな可動を愛でながら
瞬きの合間に目蓋を可視する視線で貫き瞬時解析された音声映像
まずその子音から母音へと移行する合間に立て掛けられた
一つの音階変調に伴って漂い現われる色彩変調に揺られ
流れてくる臭覚判断記憶細胞内において最も懐かしい異臭の
柔らかい刺激から胸の内に響く清々しい香りへの浮遊変動率を
時間単位に変換し左脳内に点滅する信号の
紅く熱く最微分された輝きを全神経細胞へ転写浸透させる
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隙の無い絶対完全完璧な陶酔の純潔な快楽これこそ覚醒と呼ぶに相応しい
遠く見える高純度液体金属の海面の波長に平衡感覚を溶かし込む
触覚はもとより視覚聴覚味覚臭覚を指先に集結させペン先のボールを操る
現在この覚醒時間流域及び空間帯域に浸り全身で感知し全身で味わう
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耐性に対して高純度のそして最適量の物質新陳代謝によって
崩壊再構築される意識変容は情緒不安の湧出とその沈静安定の
波紋を自由に踊り乗り越えて暗く酸味の効いた眩みの臭気と溶解し
脳髄に向けて心拍速度を操作しつつ脊髄を遺伝子形状を模して
取り巻きながら急上昇する黄金率により導き出された
螺旋状の悪寒とも言える不可思議な快感を貪る
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蝋燭の小さな火が黒々と 次々と身体に灯ってゆく 全皮膚細胞に浮き出す疹
(これは 皮膚感覚上の美の 構成経過
この体に呼吸する 多くの灯火
おまえ達 精緻な揺らぎを保つ 事態よ)
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小高い丘から 燃える 無人の街を 眺める
膨大な熱の量 莫大な光の放射 紅の純度が高鳴る
夜は更に黒く焦げ その暗幕を絶対的な闇とする
狂ったように 浮遊する 陽炎どもが燻らす 滲む舞台に 降り立ち
そして焔と共に 広大な影絵を 恍惚と演じる
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(満月の 夜潮のように 満ち足りて)
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「風化せよ」
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(かつて 私を捕らえていた容器
その 骸塵よ 風に紛れ そして 再び 風車を 回せ)