輪郭線
石黒あきこ

降りしきる雨が冷たくて
空色の傘と長靴と
赤い錠剤を渡したけれど
きみは、
だいじょうぶと笑って
飛び出していった
降りしきる雨に
きみが壊れやしないかと
怖かったんだ

煙草に火をつけた刹那
降りしきる雨を恐れるべくは
しかしわたしで

雨は止まずに
わたしの輪郭線を溶かしてゆく

きみはそれらを見つける度に
いとも容易く拾い上げて
ほらママだ、と云ってわらう

わたしは
わたしだけでもういらないのだから
きみは
拾い上げたわたしの輪郭線を咀嚼して
そして、生きて

輪郭の曖昧になってゆく指で
彼岸花を摘み取る背徳
抱えきれない花束が出来たなら
きみにあげる
そしたらね、
ほらママだ、と云って
また、わらって

雨は止まずに
冷たい
、冷たい



       詩と思想2009年12月号読者投稿欄選外佳作


自由詩 輪郭線 Copyright 石黒あきこ 2010-04-02 00:15:02
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