酔歌 - 3 / ****'04
小野 一縷

ぼくの中の 罌粟に酔って眠っていた人魚が
目覚めて 今 
ぼくの中を広々と 悠々と泳ぎ回る
そして彼女と入れ替わりで ぼくは罌粟に酔う

彼女の航跡は 蒼く甘い帯になって
ぼくの帯熱を 暖かく照らしてゆく

彼女は歌っている 喜んで
泣きながら 微笑んで 
歌って ぼくの中を泳ぐ

ああ この快楽と呼ぶに恥じない
ああ この歓喜する血液の循環

血潮

ぼくは 罌粟の華を愛す
この身体を捧げる この精神を捧げる
その 奥深い香りの為の薪にする

現実に於いて麻薬だけが 
確実に ぼくを痛めつける
確実に ぼくを救いあげる
定められた 脳内反応 知覚の変化
発汗 吐気 眩暈


剃刀の上の天秤の均衡を 揺れながら執る
ぼくの思考の 絶望と覚醒を往来  
練ってゆく知覚までの扉の奥の真理

10分 
現在ぼくが覚醒していられる時間だ
その10分
ぼくの劣情とエゴが 虹色に鈍く滲んで 垂れ流しになる
裸より開ききっている 週末に

体から内面へ向けて 覚めてゆくんじゃない
心から外面へ向けて 冴えてゆくんだ
芯から円へ円の中の円へ 冷たく鋭く

この詩は 麻薬の摂取により生まれた
即ち 麻薬の体内発現を言語化している
故に この詩は麻薬に冒されている
 
この詩を読んだあんた方は 
生憎にも間接的に麻薬を体験している
「嫌気がする」 「吐気がする」 
それはあんた方の ぼくの詩に対する耐性が 
全く低いからだ ただ言葉に酔いたいだけなら
ぼくの酔歌は 適している もっと
ぼくの詩を貪れ

扉が白く眩しく脳内に開いてゆく経過
太陽に ぼくは白く 深く遠く 抱かれている
寝転んで 緩やかな甘さに揺られながら 
今 こうして こんな詩を書いている
何度目の こんな夜だろう
憶えている訳もない 何度目かのこんな夜明け
回数より 一度ごとの深度と高度 その振幅の確保が大事だ

ノートに 震えながら 染みこんでゆく
不安定な この心を表している 弱々しい列
か細い詩句 萎えた文字の行進 まるで徒刑を思わせる

不安が二三本 横目に細く 素早く走る
恐れが 酔いを 吐気と撹拌する
安定剤を飲む頃合だ 胃薬も忘れずに

人魚は 嬉しいのか 悲しいのか 
ぼくの心の熱いところで 太陽に
融かされるように 泣いている
苦痛なのか快感なのか 酩酊なのか覚醒なのか 
分らない
ただ 彼女は美しい存在だ 単純に それだけは
何度だって確認したこと

君よりも厳しく 君よりも優しい
誤魔化すことは無理 みんな見透かされる

彼女には この身体のこと 
知られ過ぎている それは ぼく 現代のシャーマンまで
長かった 実に長かった 歴史の回帰 遥かな智慧の再認識

それで どうせなら 
酔いに頼ってばかりいる この表現欲に
苦悩と快楽が 徐々に湧き出す この仕組に

心の湖面に 幾重にも波紋が 波が生まれる 
繰り返される 波の頂点 示される波形 その曲線美に
飲み込まれ孕み 解放する 湖面を走る震えた漣に
またこうして 手を刺して 触れて 
濡れた手の平に 指と指の間に流れる 言葉の粒子
見惚れてみる じんじんと静かに脳に無造作にしかし
複雑を解いて 送られる 呟きは空白の鎖で 言葉の粒子
モダンに散る それを見続け 追う 雄弁なペン先 
その軌道 踏み外すな ここで これらに 
現実において 今にこそ 酔い続けろ ただ無垢に
許される 酔うことが 
ここに この詩に あなた自身が ただ無垢に





 




自由詩 酔歌 - 3 / ****'04 Copyright 小野 一縷 2010-03-31 12:42:54
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