丸卓袱台
草野大悟

煙ばかりを相手に
暮らしてきた人生だったと
したたかに酔ったオヤジが
丸卓袱台のそばで
腕枕しながら
ゆらりゆらり
語っている

現職のころオヤジは
仕事から帰ると真っ先に
風呂場で足を洗い
和服に着替え
風呂上がりに焼酎を飲み
お袋やおれたち兄妹相手に
よく分からない話をし
腕枕しながら
ゆらりゆらり
船をこいでいた

丸卓袱台は
専売公社とよばれていたころの職場に
オヤジが勤めていたころからずっと
なぜか我が家の中心に在り続け
いまでも我が家のすべてを
知り尽くしている顔をしているけれど
小学生のころ
その周りにいたおれが
口をあけて船をこぐオヤジを見ながら
ひっそりと
こんな大人にはなりたくないと
考えていたことを
おそらくは
知りはしないし
大人になって
ゆらりゆらり腕枕するのも
なかなかに味わいがあるものだわい
などと考えていることを
おそらくは
おそらくは
気づいていないだろうと
オヤジも
お袋も
妹も
いなくなった
丸卓袱台の側で
考えている




自由詩 丸卓袱台 Copyright 草野大悟 2004-10-02 21:43:47
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