ロスティスラフの猫
atsuchan69

つい今しがたTVニュースを観始めるまえまで
いくぶん柔らかめなカールのブリーチトブロンドの女は
薄切りのハニートーストと生ハムと桃を食べていた
その唇は鮮やかに紅く、甘い蜜に濡れている

花柄のマグカップにコーヒーを注ぎ、
まだ熱いうちに淹れたてをひと口啜っては
隣りの部屋から来たロシアンブルーを抱き上げ
やがてベージュ色の革のソファに坐った

 イルカを殺す残虐な日本人。
 痙攣し、硬直する黒く逞しい胴体

眼を覆いたくなる映像から逃げたくなる
「あ、マグカップをキッチンに忘れていたわ!
――ふと立ち上がり様、
そのときソファに置いた携帯が鳴った

重要な取引で部下がしくじった
と、それはいつになく重く厳しい口調で告げた

電話の声は彼女の主人だったが、
今夜はどうしても彼を家に呼ぶつもりだという
「ぜひ励ましてやりたい
そうだ、庭でバーベキューってのは? 

「OK、きっと名案だと思うわ
その後、彼女は早速メイドを呼んだ

「あなたは、メイドのなかでは一番永いもの
きっと判ってると思うわ。けど、その・・・・
主人の部下をお招きするときって
ええ。ずいぶんと大変よね、――とくに後始末とか

すると小太りのメイドは
「はい、わかっとるーだがね。
大きく斜めに顎を突き出し、
醜く、さも自信ありげに笑った

 手際よく死体を包むシーツの用意だとか
 コークスをくべた特殊焼却炉の火加減だとか
 焼いたあと、ハンマーで骨を粉々に砕いてから
 小分けにして海や山に捨てるのだとか

女はふたたび猫を抱いて明るい窓辺に立っていた
まだ一日は始まったばかりだったが
――本当に、本当に久しぶり・・・・
半年ぶりの、若い男のレアなレバーだわ!

美しい血の儀式が執り行われる夜まで待てず
早くも彼女は、ほんのり珊瑚の色に頬を染めていた







自由詩 ロスティスラフの猫 Copyright atsuchan69 2010-03-18 19:33:29
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