夕景 ー病院の屋上からー
服部 剛
長い間、入院している痩せた男は
夕暮れ時の屋上で
かつて自分が働いていた
スモッグの乳色に覆われた
街の広がりを、眺める。
見下ろす玄関には今日も
無数の人々が蟻の姿で
絶え間なく
吸い込まれては、吐き出され
病院という白い怪物が
まるで、呼吸をするように。
屋上に立つ痩せた男は只一点に、目を細める。
薄汚れた街の向こうに立っている
あの小さい煙突の上に
昇る煙のひとすじ
何故あんなにも優しく
夕暮れの雲間に吸いこまれるか・・・
未知なる者の応答は今日も
一つの低い旋律で、囁いている
夕暮れの雲間に開いた
あの不思議な唇から