夕景 ー病院の屋上からー 
服部 剛

長い間、入院している痩せた男は 
夕暮れ時の屋上で 
かつて自分が働いていた 
スモッグの乳色に覆われた 
街の広がりを、眺める。 

見下ろす玄関には今日も 
無数の人々が蟻の姿で 
絶え間なく 
吸い込まれては、吐き出され 

病院という白い怪物が 
まるで、呼吸をするように。 

屋上に立つ痩せた男は只一点に、目を細める。 

薄汚れた街の向こうに立っている 
あの小さい煙突の上に  
昇る煙のひとすじ  
何故あんなにも優しく 
夕暮れの雲間に吸いこまれるか・・・ 

未知なる者の応答は今日も  
一つの低い旋律で、囁いている  
夕暮れの雲間に開いた
あの不思議な唇から 








自由詩 夕景 ー病院の屋上からー  Copyright 服部 剛 2010-03-09 21:45:15
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